体の何割かがSFで出来ている筆者にとって、どんなジャンルの創作物であっても”いかにも本当っぽく作られている嘘”に気づけたときの興奮は、創作に触れるうえでの大きな喜びの一つです。
ミリシタの強みとしてよく挙げられるカメラワークもそのひとつで、よく考えると現実ではあり得ないような文字通り異次元の動きをするカメラによって撮影されたMVは見ていて本当に飽きません。
まあカメラワークの凄さは今さらここで自分が述べるまでもなく既にミリシタの代名詞の一つだよねってところで、今日はそれ以外の演出の中から”いかにも本当っぽい嘘”が楽しめる曲3つをご紹介したいと思います。
1.Miracle Night
初出はPS4ソフト・アイドルマスタープラチナスターズでミリシタMVはその移植版。

一目で分かるPS4版との違いはステージが宇宙船内になっていることで、窓の外には巨大な地球が広がり、猛烈な輝きを放つ太陽の光が船内に射し込んでいます。
SF映画マニアの諸兄ならばこの光の演出を見ただけで「おっ!」と心が躍るはず。大気が存在しない宇宙空間だと太陽の光が拡散せず刺すような見え方になる・・・というのは実際の科学考証に沿った表現で、古くは映画・2001年宇宙の旅などから用いられている演出技法です。
Miracle NightのMVではこの特徴的な太陽光を完璧な形で演出に組み入れており

わかります?このシーン。
消したり移動したりできないはずの太陽をキャラクターや宇宙船の構造物で巧みに隠し、タメから動くと同時に猛烈な光がカメラに飛び込む劇的な効果を生み出しています。
宇宙船でMV撮影できるのかというそもそもの話はひとまず置いておくとして、実写でこれと同じものを作るのは理屈上不可能ではないものの実際問題としては不可能でしょう。ダンスモーションをコマで送り戻ししながら空間のあらゆる座標にカメラを置くことができるからこそ実現できている演出です。
これぞ”いかにも本当っぽい嘘”。それでもめちゃくちゃ手間掛かってそうですけどね。
2.百花は月下に散りぬるを
ド派手なステージで繰り広げられる和ロック(とみんな言うけど和スカじゃないの?と個人的には思う)の世界。
特徴はなんと言っても小物の扇子。曲中盤で「あれ?それそうなってたの?」と初見で驚く例の演出については今回このテーマで触れるまでも無いので割愛。
では”細かすぎて伝わらない嘘”はどこかというと

扇子の向きです。
かなり激しい振り付けの曲ですが、どれだけ動いてもどれだけ視点がバシバシ切り替わっても扇子は常にカメラに向かって最も映える方向を向いています。完璧に制御された動きそのものが嘘であることに加え。「常にカメラに向かって最も映える方向を向いて」いるというのが二重の嘘で、実際に客を入れてのステージパフォーマンスなら本来は観客席に向かって最も映える方向を向けなくてはいけませんよね。
カメラの位置と切り替わりを完璧に把握している、現実でこれをやったらこのパフォーマンスだけで食ってけるんじゃねってレベルの神業なんですが、それをあまりに自然にただ「なんかすげえなあ」という印象だけを与えるMVに落とし込んでしまう、これまた”いかにも本当っぽい嘘”。
ちなみにカメラが正面固定されるソロだとどうなるかというと

見得を切るシーンでは大体扇子がフレームから外れてしまうため問題になりません。よくできてるわね。
3.Glow Map
最後は筆者が愛してやまないミリシタ3周年記念曲・Glow Mapです。
このMVの嘘は気づいた方も多いでしょう。
茜色に染まるローディング画面から始まったステージが進行するにつれ周囲には徐々に夜の帳がおちてゆき、すっかり闇に包まれたサビのタイミングで専用衣装インフィニット・スカイが光り輝き出す。

・・・あの衣装どういう仕組みで光ってるんだ?
も気になりますけどね! 謎技術でイルミネーション発光する衣装は筆者が初代アイマスに興味をもったきっかけではあるんですけど、正味2分ちょいで日が落ちて真っ暗になるってどんな状況だよ?というのが今回語りたい嘘の部分です。
Glow Mapは3周年イベント直前に予定されていたミリオン7thライブで初披露されるはずだった曲でした。会場は富士山のお膝元・富士急ハイランドコニファーフォレスト。

というわけで夕暮れに染まる富士の裾野の峰々

サビで衣装の発光

ラストの特大花火。
これらを全てを2分強に納めるため、MV中の太陽はものすごい勢いで地平線に沈み夜がやってきます。
屋外会場のライブでこの曲を披露して直後の周年イベントでゲーム版が実装されたらさぞかし盛り上がったことでしょう。しかし例のクソみたいな世界情勢の巻き添えとなり7thライブは開催中止、このお披露目は幻となってしまいました。
それからしばらく後、”ReBurn”と名打たれたやり直しの7thライブではラストの花火を逆にリアルで完全再現するなど運営の執念を感じさせたGlow Map。さらに2023年の元旦に実装された39人ver.では運営のメッセージともとれる演出が”いかにも本当っぽい嘘”と共に盛り込まれています。

39人ver.のGlow Mapは歌い始めからすっかり日が落ちています。
全編夜のシーンが続くと思いきや、歌い終わりに完璧なタイミングで富士山からご来光。

大晦日のカウントダウンライブは聞いたことあるけど、初日の出が拝めるライブって午前5時開演とかなんか?

あとコニファーフォレストは富士山の北側に位置してるんで位置関係はまあいいんですけど、太陽はあそこから出てこないような・・・という嘘。
最後が朝焼けで終わるこの演出は単純に解釈すれば2023年元旦の初日の出なんですが、2019年夏に新型コロナウィルスという未曾有の闇によって初披露の舞台を奪われたGlow Map・輝ける地図が困難の中でも人々を導き照らし続けた末にようやく迎えた全世界の夜明けを示すシーンでもあります。

ときに不幸と理不尽の文脈で語られることもあった3周年記念曲。しかしその美しく力強い光はどれほど夜が長く続くとも失われることはなくやがてPたちを支え続けた希望の光として語られるようになり、新たに付け加えられたバージョンにはそれを暗示する演出が最後の見せ場として組み込まれたのでした。
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演出に嘘があるポイントというのはそうしてまで伝えたいこと、表現したいことがあるという作り手の意思が表れているポイントでもあります。
いかにさりげなく嘘を忍び込ませるか。受け手にそれと意識させることなく、しかし道理を曲げてまで伝えたい強い気持ちを表現しようとする作り手のあの手この手の創意工夫。ミリシタのMVをじっくり見ているとこういう手の込んだ世界の舞台裏にふと気づくことがあるでしょう。そこに作り手からのメッセージを感じ取った瞬間、MVの理解と魅力は一気に深まります。
一から十まで指摘してしまうのは野暮というもの・・・というわけで今回は筆者お勧めのとっておきの嘘が楽しめるMVを3つだけ紹介させていただきました。皆さんのお気に入りのMVにもまだ広く世に知られていない魅力がたくさんあるはず、それを大いに語ってあげてください。それもまたプロデュースですから。
最初のライブシーンが”あの曲”だった時点でミリアニ完成度の異次元の高さを確信した話(第1話ネタバレ解説&感想)
前回の記事執筆後もずっとミリアニのことを考えていたらあまりにも語りたいことが多くなってしまったため、急遽ミリアニ全話ネタバレ解説&感想シリーズをすることにしました。
ストーリーをなぞるのではなく主に脚本や演出の細かいところを自分なりに解釈して解説したつもりのものなので未視聴だと訳の分からない話になってしまうと思いますが、一度アニメを見たうえで読んでいただければそこそこ楽しんでもらえるんじゃないかなあと考えております。
ミリアニ第1話は未来ちゃんがASのライブを見て765プロのオーディションを受けることを決めるというアイドルものの王道展開だったわけですけど、ここでの選曲が『TOP!!!!!!!!!!!!!』だった瞬間、多くのPが「え!?」と思ったことでしょう。俺だってそう思った。あまりこういう象徴的なシーンで使われたこと無かったですもんね。
はじめにメタ的な視点から読み解くと、”劇場版アイドルマスター 輝きの向こう側へ”のテーマ曲だった『M@STERPIECE』はPS3版アイドルマスター第2作・ワンフォーオールのMVでいきなり前代未聞の13人ステージが始まってPたちの度肝を抜くという形で実装されており、同作をプレイしたPにとってはOFAを象徴する曲としても記憶されています。

一方の『TOP!!!!!!!!!!!!!』はPS4版アイドルマスターシリーズ第2作・ステラステージの代表曲。

「”輝きの向こう側へ”以降、つまり『M@STERPIECE』以降のASの代表曲」と考えたとき自然と名前が挙がるのが、PS4版アイドルマスターシリーズ第1作・プラチナスターズの代表曲『Happy!!』と、第2作の代表曲『TOP!!!!!!!!!!!!!』なんですよね。
「劇場版アニマスの続編・・・とははっきり言わないけど、まあなんていうか、そんな感じの、アレよ」というミリアニの立ち位置を示すのに、『M@STERPIECE』→『TOP!!!!!!!!!!!!!』という流れを暗示的に持ってきたというのが「こいつ、やりおる・・・」と最初に唸ったシーンでした。
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そんな感じで既存P向けのちょっとしたサービスなのかと思ったら更に唸らされたのが歌詞に合わせたシナリオの展開です。もう5年以上前から数え切れないほど聴いているはずの歌詞にASの新たなパフォーマンス映像とそれを客席から眺める未来・静香の姿が重ねられると、その内容に「・・・マジで?」となるという。
”ToP!!!!!!!!!!!!!
始まる物語(ストーリー)
好きな夢描いたら
本当の自分探しに行こう
終わらない道(ストリート)
どんな日も乗り越えて
まっすぐ進もう
みんな信じて
I CAN DO IT NOW!”
探し求めていた夢は今目の前にあると未来ちゃんに気付かせるきっかけとなった曲、叶えたい夢のために踏み出すことを静香に決意させるきっかけとなった曲。そこで使われている曲の歌詞がこれなんですよ?
・・・これ既存曲・・・でしたよね? このシーンのための書き下ろしじゃないっすよね・・・?
そしてこの曲を最も象徴する歌詞の部分、春香が『ガンバレ!』を歌った瞬間

先ほど開演前の客席で「ガンバレ!」と叫んでいた未来ちゃんの意識がステージの上のアイドル・春香とシンクロし、自らがアイドルになってあのステージに立つこと、それが自分の夢なんだと気づくという・・・予告で使われてたあの「ガンバレ!」ってシーン、え?あれ単なるギャグじゃ無かったの!?伏線だったの!!?
スタッフの愛と知識と情熱の篭めようにもう変な笑いが出てました。
何か、何かとんでもないものが始まってしまった。皆さんも恐らくこのあたりからミリアニを見る姿勢が変わったと思います。
まあこのシーン、開始10分かそこらのとこなんですけど。
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ライブ終演後も『TOP!!!!!!!!!!!!!』の余韻は覚めません。
今度は夜の公園で静香がこの曲を歌うシーンで、ラストの歌詞を飲み込んだところに未来ちゃんが「WE CAN DO IT NOW!」と割り込んできます。
そこの歌詞は「WE」じゃなくて「I」だと訂正する静香。『TOP!!!!!!!!!!!!!』は1番が「I CAN」で、2番が「WE CAN」なので静香の言ってることが正しいんですが、最初の1番から「私たちは出来る!」と言い切れてしまう未来ちゃんと、「私は出来る」とすら歌えない静香の心境、そして環境の違いがここで浮き彫りになります。
ライブに行くと言ったら双眼鏡持ってきなと言い自分たちの時は演者が米粒にしか見えなかったとケラケラ笑い合う未来の両親と、自分の夢について語ることすら許そうとしない静香の父親。溢れ出る行動力がありながら夢を見つけられなかった未来と、譲ることの出来ない夢を持ちながら最初の一歩が踏み出せなかった静香。あらゆるものが対照的な2人。
そんな2人の道が重なり合って「WE CAN DO IT NOW!」ともう一度未来が叫び

アイドルマスター ミリオンライブの幕が上がる。
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第1話部分終了の時点であまりの完成度の高さに呆然としたまま泣いておりました。
想像していたものの遙か上なんてもんじゃない。自分には想像すら出来ないレベルのものが来てしまった。
多分これ、何も知らない人が見てもめちゃくちゃ面白いと思いますよ。『TOP!!!!!!!!!!!!!』に関する予備知識全部抜いても未来がアイドルになることを決意する流れや未来と静香が対照的な境遇であることは十分分かりやすく描かれてますし、そんな2人が手を取り合う展開の熱さは伝わってきます。ひたすら清々しく王道を行く展開、それなのにとにかく面白い。こういうのは初見でも面白いもんなんです。
気力と才能に溢れた大人たちが、自分たちの持てる全てを出して自分たちの好きなものを好きだと叫ぶ。それを目の当たりに出来たこと、そしてこの愛すべき大人たちと同じものを自分が好きでいられたという幸運に他ならぬミリオンライブで巡り会えたことに自分は今深く深く感謝しています。
ならば俺も、この大人たちには及ばずとも、再びミリオンライブが大好きだと叫ぼう。
全く予定なんか無かったけど今はもう語らずにはいられない。ミリアニ全話解説シリーズ、やらせていただきます。
→ テレビ放送後の感想延長戦・第1話