ミリアニネタバレ解説シリーズ第2話です。
文句なく劇場公開第1幕のクライマックスでしたね。
まず語りたいのは「翼が静香の背中を押したこと」について。
このみさんのアドバイス(?)を得て「人数半端になっちゃったからちょっと一緒にやってみて」と、未来・静香のオーディションステージに立つことになった翼。
練習段階から圧倒的なポテンシャルを発揮し、急遽サポートで入ったオーディションのためのステージも難なくこなします。未来も彼女なりに精一杯アピールする一方、静香はプレッシャーに押しつぶされもはや声も出ない。とうとう足が止まった瞬間、未来と翼に背中を押され・・・となるわけですが、夢を語り合い一緒に練習してきた未来はともかく、ここではさっき出会ったばかりの翼も未来と同じ強さで静香の背中押すんだ・・・というのがちょっと意外でしたよね。
ミリシタ内においても翼の行動って未だに自分には読めないところがあるんですけど、このシーンに関しては第1幕を全て見た後で考えるとすぐ納得いく答えが浮かびました。
アニメ中で口にしていた「面白くなりそう」と以前から翼がちょいちょい口にしていた気がする「つまんなーい」、これが翼の行動原理なんですね。
オーディションのステージで静香の背中を押したのは「そうしたほうが面白くなりそうだから」だけで説明つくんです。
結果としてこれが765プロの運命自体を変える結果になったのは後の第4話のシーンも然り、「ここでどうするとこの先がもっと面白くなりそうか」を察して行動出来るのが天性のパフォーマーの資質、もっと言ってしまえばトップアイドルになるための重要な資質でもあります。
行動原理は極めてシンプルなのに翼の考えを一筋縄で掴みきれないのは、一見すると言動が小悪魔そのものなのに判断基準は「自分が面白いか」ではなく「自分たちが面白いか」になっているためで、自分だけが楽しめても結果として周りの空気が悪くなったらそれは「つまんない」。逆に自分がいくらか損するとしても結果としてみんなが楽しく終われたらそれが「面白い」、彼女はそう考えられる子なんです。
普段から気遣いすらあまりに苦も無くこなしてしまうせいで分かりづらいことも多いところ、これを過不足なく描きあげる劇場第1幕の翼の表現は実に見事でした。
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それから翼があのステージ上で「静香の背中を押した方が面白くなる」と判断したことをもう少し深読みしてみると、彼女の心中のまた別の側面も見えてきます。
ここで静香の背中を押したらきっとこの後が面白くなる、翼はあの瞬間に未来と静香がアイドルになって自分と同じステージに立つことを望んだわけですが、そもそも彼女自身あの時点ではアイドル活動をする動機が”何かいいご褒美をもらいたい”くらいのもので、まだかなりふわふわしてたはずなんですよね。
3人で同じステージに立つ姿を想像したとき、翼も夢への扉を叩いたのかもしれません。この2人と一緒にいるときっと面白いことが起こる、彼女の直感がそうささやいたのでしょう。ここから翼は未来・静香と行動を共にするようになります。
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彼女たちの全力のステージを目にしたPは、その先に765プロの新人アイドルたちがやがて現実の物とするあろうステージの幻影を見ます。いかにも漫画的な演出ではあるものの、見る者全てを魅了し熱狂の世界を作り上げる力こそアイドルを目指す者に求められるスキル・・・と考えればあながち突拍子も無い表現ではないような気がしてきませんか? まあ何にせよとにかく盛り上がるしな!
と言わざるを得ない圧巻のシーン。
「見えたんだろう?」とPに声を掛ける高木社長。
この台詞でこれまでにプロデューサーとしても幾多のアイドルを手掛けてきた社長もかつて同じ経験をしたことがあるのが分かります。3人の新たなるアイドルが生まれたとき、それは765の新人Pが手掛けるプロジェクトのビジョンが固まったときでもありました。
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やや余談となりますが、ここで使われたミリアニテーマ曲の”Rat A Tat!!”ともう一つのイメージソング”セブンカウント”って、どちらにも歌詞の中に扉を叩く表現があって、どちらの歌の中でも扉はただ叩かれるだけで終わってしまうんですよね。あれにもちゃーーーんと理由があります。
この制作陣ならほぼ間違いなくギミックを仕込んでるだろうし、本編で初めて見て「うおおお!」ってなってもらいたい気もするんで、ここまで話して「あ、わかった!」って人と「我慢ならん!」って人だけ下のリンクをクリックして答えを確認してください。
扉が開くシーンが無いのは、扉が開く場面がまた別のところに用意されているから。 つまりそれは・・・
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ほんとどこを切り取っても油断ならねえよ、このアニメは・・・。
→ テレビ放送後の感想延長戦・第2話
Glow Mapはいいぞおじさん、意外といい線を突く話(第3話ネタバレ解説&感想)
ミリアニネタバレ解説&感想シリーズ第3話です。
765プロのオーディションに合格し、ついにアイドルの第一歩を踏み出した未来と静香。しかしここはただの芸能プロダクションではありませんでした。
劇場外でガラクタを積み上げてアートを語り出す奴、白馬の模型に乗って現れる自称姫の奴、事務所内でキャッチボールする奴、某事務員ばりの特殊背景まで展開して妄想し始める奴、ほぼ無名状態の自分のアイドルグッズを勝手に企画発注し山積み段ボールが送りつけられてくる奴。
むせ込むほどのトンチキ。

知らなかったのか? トンチキは今や765プロの代名詞なんだ。
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今回は劇場版アイドルマスターにも登場したシアター組一期生の
妄想文学少女・百合子に焦点が当たります。後輩という存在を前に発憤する彼女ですが、未来たちにも昴にも果てはダンスレッスンの先生にまでペースを崩され「ええぇ~・・・」の連発。
無事お馴染みのポーズにて撃沈するに至りました。
ここで百合子が意気消沈してスランプに陥ってしまってもおかしくなさそうなところ、すぐ異変に気づいたのは先ほど白馬(の模型)に乗って現れた自称姫のアイドル・まつり。
すばやく話題を変えてまだ建築途中の館内を案内すると宣言し、一同は”大臣”に工事現場見学の許可を貰いに向かいます。大臣、実在したのか。そして強面の
現場監督大臣は「まつり姫が言うなら仕方ねぇな」とお願いを快諾。仕方ないのか・・・いや待て、今このおっさん”まつり姫”って言ったぞ。まつりが現場工事スタッフの心を掴んだきっかけは彼女が振る舞った差し入れらしく、初見では誰しもがエキセントリックな印象を抱く彼女には気配りの天才という別の一面もあることが示されます。
ここまで丁寧ではないにせよ、キャッチボールのヤバい奴・昴にはいかにもスポーツマンらしい気さくな一面があり、グッズ無断発注のヤバい奴・茜には彼女なりに考えた売れっ子になるための長期的なプランがあるなど、その場その場でアイドルたちは各々の哲学や考えをしっかり持っていることが明示され、これが第4話で37人ものアイドルがそれぞれの意見を口にするシーンを下支えする柱として機能していくことになります。
なお無断発注された大量の茜ちゃんステッカーは劇場公開来場者特典として無事
処分活用された模様。あれ?そういえばアートのヤバい奴・ロコだけフォローが無かったって?
ロコのパーソナリティをきっちり説明するのはロコアートを説明するのと同義だから山場として持ってくるならもっと後でしょう。予告編で既に明らかになっているとおり、彼女にはこの先ミリオンライブを象徴するシンボルを多数デザインしてもらう大役が控えてますからね。今はまだ独りよがりなアートを作っている彼女が、皆に理解され、また彼女が皆を理解したときがそのときになるはずです。
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そして山場は百合子が見せた別の顔。
既にアイドルのステージに立った者として感想を聞かれわずかに考え込んでしまった彼女ですが、再び絶妙なパスを出したまつりのアシストを受け先輩アイドルとしてASのステージに参加した際に見た光景の素晴らしさを新人3人に伝えます。
劇場から見える星空と夜の街の輝きを客席のペンライトに重ねるのはいかにも文学少女らしい表現。今、目の前に広がる光は命であり、アイドルのステージと客席のペンライトはこれと同じ人々の営み、命の輝きに見えると語ることで、第2話で唐突にPが口にした百万の命の輝き・ミリオンライブという概念が補足されます。
・・・でね!あのね!
ミリシタにはGlow Mapっていう3周年のときの記念曲があって、管理人が初めて現地参加したミリオン10thライブでGlow Mapがペンライトの光の中で大歓声を浴びてるのを見た時、誇張とか一切なく本当に大泣きしたんですよ。このへんの細かい話は今年もう4回くらいしてるんで全部省きますけど。
新型コロナという未曾有の困難の下でもそれぞれが出来ることをやり続けた運営スタッフやPたち一人ひとりの営みの光は、俺たちはそれでもこの劇場を守り抜くんだという意思の光であり、それらが結びついていく姿はそれこそ輝く地図のようでありました。自分の副業が医療従事者なこともあり比喩抜きで命そのものを意識することも一度ならずあっただけに、遂に夜明けを迎えペンライトの光と万雷のコールが戻ってきたあの時のステージそしてライブ観客席の光景は本当に命の輝きに見えたんです。

百合子の語りを聞くうち、自分もスクリーンに大映しになった夜景と名古屋10thライブの思い出を重ねていました。あの感動を何度でもファンに届けたい・・・百万の命の輝き・ミリオンライブ、わかったよ!今度は俺にもわかった!
ペンライトを振るライブ自体1度しか行ったことがない筆者にもこんな思い出があるんだから、アイマスに限らずこの手のライブに参加した経験がある歴戦の猛者諸兄にもあの夜景に重なる光の情景が記憶のどこかにあったのではないでしょうか。
筆者は折に触れGlow Mapのことを思い出して泣くビョーキにかかっているため、映画館でこのシーンを見ながらGlow Mapを思い出したのはいつもの発作かと深く考えずにいたんですが、後日ミリアニの精神であるテーマ曲・『Rat A Tat!!』を作曲された佐藤貴文氏がこんな発言をされておりました。
あああー!そうか!そうだよなあ!やっぱりあれはGlow Mapだったんだなあ!!(また泣く)
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先にステージに立ったアイドルとして胸の内を語り、未来たちとの心の壁を取り払ったところで百合子は自ら自分のことは呼び捨てで呼んで欲しいと告げました。ここで劇場組では一番古株の百合子が一番新顔の未来の手を取ることで劇場組37人の立場がオールフラットになったって指摘を見かけたんですけど、あー、なるほどなあって大きく頷いちゃいましたね。
ついでにまたメタな解説をすると、百合子は未来や静香よりも1歳年上なのに呼び捨てにされていて、その理由は「百合子が百合子だから」なんてネタにされてたんですよね(実際にはさん付けだったときもあったりして表現にブレがある)。
長期コンテンツ故の設定のブレをネタにした、要はファンの間でのお遊びだったんですけど、それをさん付けと呼び捨てが併存する新しい世界を作ることで解決してしまう展開の妙にも賞賛の声が上がっていました。
更に付け加えて賞賛させていただきますと、百合子が自分を呼び捨てにして欲しいと口に出来たのはそれより前のシーンで昴が”自分と百合子は1個年上だけど呼び捨てでいいぜ”と前振りしていたからで、これが上述のとおり昴の気さくさを表現しつつ、後で百合子に小さな勇気を出させる布石としても機能しています。
1つの発言にいくつもの意味を持たせ、たった12話というあまりに短い尺の物語を超重厚に仕立て上げるという手法がミリアニでは多用されまくってますが、これはまだ序の口。第4話では凄まじいまでの職人芸が爆発します。
→ テレビ放送後の感想延長戦・第3話