4話は台詞2つでまとめられるよと思ったけど結局まとまらなかった話(第4話ネタバレ解説&感想)

お察しのとおり大変な労力がかかっているミリアニ全話解説&感想シリーズもこれでひとまず第1幕完走。第4話分です。

たった12話の尺の中に可能な限りの奥行きをつけるため、ミリアニは劇中歌や日常会話、ほんのわずかなカットまで至る所にダブルミーニング、トリプルミーニングの演出が仕込まれているというのは既にご理解いただけていると思いますが、第4話ではその演出の冴えが第1幕最高潮を迎えます。

第3話のなかでアイドル・スタッフが次々に口にした「待ちきれない」の言葉。
何か今できることは無いかと未来が未来なりに考えそして辿り着いたのが、劇場建築の資材置き場にも使われている隣接する空き地で「原っぱライブ」を開催するという企画でした。

これがミリオンライブの原点である空き地に建てられた”手作りの「ぶどーかん」”を産むきっかけになるのは間違いないんですが、これについては第2幕へ。

未来から企画を案内するメッセージを受け取るシーンでグリマス時代のアイドル37人が遂に全員登場します。このシーンがまずポイントで、突拍子も無いアイディアに対するリアクションという形で、アイドルの顔と名前、そしておおまかな性格までを伝えていきます。

また複数人で端末を覗き込むグループがいくつかあり、それぞれのグループの構成は第4話中では基本的に入れ替わりません。現時点ではこの子とこの子が仲良しなんだよというところまでの説明になっているわけですね。

真っ先に企画に食いついてきたのはもちろん茜。
事務所へ飛び込んで来るなり「なんでもあり」の原っぱライブを絶賛するだけして、各アイドルへ根回しのために飛び出していきます。しかしまだ何も決まっていなかったライブの内容は、伝言ゲームを重ねるうちに「なんでもありのお祭り」という話に。

やっとファンの前に立てるとやる気をみなぎらせる子や何故か屋台の準備を考え出す子がいる一方で、思いつきの企画を不安がる子も出てくるなど反応は様々。そんな様子を目にして当の茜は自分が火を付けた企画がノーブレーキで進んでいく様に不安を覚えはじめます。実は常識も分別もある茜、ただそれに従うことはあまり無いんですけど・・・。

徐々に広がっていった不安と混乱がロコアートが倒壊するという出来事によって顕在化したとき、Pは皆に一旦ストップを号令しました。

まだ未完成のホールに集合したアイドルたち。
一瞬入った俯瞰のカットを確認すると、ここでもアイドル達はいくつかのグループに分かれていて、これが誰と誰が仲が良いかをもう一度説明しつつ、それぞれのグループ同士はまだ不自然なくらい離れているという微妙な距離感を表しています。各グループの間を飛び回っていた茜だけがどのグループにも依っていないというのも細かい演出。

原っぱライブについて話し合おうと思うと言うPに「なんでもありなんやろ?」と返す奈緒。こういう場面で臆せず発言ができるのはさすが一期生のまとめ役でお節介焼きでおしゃべりな奈緒らしいところ。そして根回しの際「なんでもあり」という単語を最初に発した茜は傍らで肩を跳ね上がらせます。

いつもありのままの感情で人と接しているぶん、他人から負の感情を感じ取ったときには人一倍傷つきやすいところがある茜。このあたりは彼女のナイーブな一面を知っていないと登場以来やりたい放題だった彼女が急に焦り出すのが唐突に見えてしまいかねません。だからこそこれだけ内容を詰め込んだ第4話の中でも事前に話がマズいことになりつつあると思っているシーンを、敢えてこの前に一度描写していたわけです。

身も蓋もなくメタな見方をしてしまうと、ここで奈緒と茜という口の回る2人が全力プレゼンできる環境を作ってしまうとそれだけで流れが決まってしまいかねないため、それを防ぐ目的もあるはず。

メンバーの心がバラバラになりかねない今の状況を作ってしまった原因の一端を担ってしまった責任を感じた茜は、いつもなら最も得意とする企画準備の話し合いの場にも関わらずほとんど発言できなくなってしまいます。

しかし、ああ・・・しょげちゃった・・・と思いきや、賛否両論の意見が出る中でもう材料を仕入れてしまったと奈緒がボヤくと、途端に「仕入れ仲間・・・!」と目を輝かせる調子の良さはもはや才能。おい、軽いな!今俺お前の担当としてフォロー入れてたんだけど!?・・・えー、どれだけやらかしても決してめげないところが茜の良いところです! アイドルが躓くたびにすかさずフォローが入るのもミリアニ脚本の特徴ですね。

「仕入れ仲間・・・」は第1幕でも指折りのギャグシーンであると同時に、流れ次第では矛先を自分を向けてくるのではないかと恐れていた一期生の奈緒が自分と同じくらい開催に前のめりな仲間だったと知った安堵感、そして特におしゃべりなこの2人でさえお互いの状況を把握していないというこの時点での距離感などがまとめて表現されています。

力を合わせて企画開催したフェスが大成功しているエピソードが既にミリシタに実装されていたりするぶん、この空気感はなんとも新鮮ですね。

なんとなくそのままの流れで奈緒はこのあとの議論のまとめ役にもなっていきますが、桃子が感情的に否定意見を並び立てるのを「言い過ぎ」となだめたところ、桃子は売り言葉に買い言葉で「やりたくないって言ってるの!」と叫んでしまいます。個人的に第1幕で一番印象に残った台詞がこの「やりたくないって言ってるの!」でした。

桃子が子役時代幾度となく言い放ってきたであろう「やりたくないって言ってるの!」という台詞。だからこそカッとなったあのシーンで思わず口をついて出てしまったんでしょうけど、今の彼女にとってその言葉は自分から両親を含む過去の全てを奪ってしまった呪いの言葉に他なりません。そこから765プロのアイドルとして芸能界に復帰するまでの期間は彼女の年齢から逆算すると長くて数年といったところ。しかし逆に考えるとまだ11年しか生きていない彼女にとって、そのうちの数年という時間は相対的にはとてつもなく長いものです。

人生の何割にも及ぶ暗黒の時代からやっと抜けだし、育や環、ひなたをはじめとした劇場のメンバーを仲間と感じられるようになってきたその矢先に降って沸いた博打のような企画。あまりに軽々しいノリで交わされる議論に、アイドルの仕事というのはそんな軽薄なものなのか、今の自分にはここしかないと思っていたこの劇場は他の子にとってはその程度のものでしかないのか、”せっかく”また自分の居場所が出来ると思っていたのに・・・と込み上げてくる怒りに任せて意見したところを「賛成派」の奈緒に諫められたことで逆上した桃子は、禁断の、呪いの言葉を叫んでしまいました。

これでまた自分は全てのものを失うことになった。桃子本人はそう思ったことでしょう。
しかしまだ小学生の桃子がいかにも幼稚に「やりたくないって言ってるの!」と拒絶してきたのには個人的には救われた思いをしました。なんか急に子供っぽく駄々をこねられると、年上として同じレベルでやりあうわけにはいかなくなってしまうというか、もう少し格好つけて言うならこっちは大人の対応をしなくちゃって気が沸いちゃって本気で怒れなくなっちゃうんですよね。

一期生の中で一番先輩風を吹かせていた奈緒も、桃子にああ言われてしまうと立て板に水では言い返せなくなってしまいます。一瞬戸惑ったであろう奈緒。ですがその反応こそ彼女が思いやりのあるお姉さんである証拠。自分は「あーあ言われちゃったなあ」と心の中で苦笑して奈緒に同情しつつ、桃子からすると非常に強い拒絶でありながら奈緒からすると正面から打ち返すわけにはいかなくなってしまう絶妙な間隔を突く脚本のセンスにただただ脱帽していました。

「休憩はいいんだけどさあ・・・」と台詞が入り再び俯瞰のショット。
桃子ほか数名が出て行ってしまって人数が減ったホールはお互いの距離が広がりさらに寒々しく見えます。さっきは1人で立っていた茜は、いつの間にか移動して麗花・美也グループのところへ。少し調子を取り戻したとはいえ、拭えない不安から麗花たちに話しかけずにはいられなかった心境をワンカットで表現しています。

桃子は劇場の廊下に一人で座っていました。
物陰から彼女を見つめるだけで何を言って良いか分からず二の足を踏んでしまう琴葉、そこへ現れたのは劇場一のポーカーフェイス少女・瑞希。日頃から大人っぽい落ち着いた女性になつきやすい桃子にとっては正に頼れるお姉さん、一目置いている相手です。

おもむろに桃子の前に跪いた瑞希は特技のマジックを披露・・・したものの失敗。しかし桃子の顔には笑顔が戻りました。

失敗してもあくまでポーカーフェイスのまましょんぼりする瑞希がおかしかったのもあったでしょうが、笑顔になった大きな理由は「あの一言でまた皆が離れて行ってしまう」と思っていたに自分に、すぐ寄り添いに来てくれる仲間がまだいたという安心感からのもの。一気に気が抜けた頭で考えてみればあの企画自体プロジェクトの全てが掛かっていると言うほど大仰なものではなく、何をムキになっていたんだろうという自分への呆れの意味もあったはずです。

桃子の心がほぐれたことを確認した瑞希は原っぱライブについて「やってみると何かが伝わることもあるのかもしれません」と説きます。ああ見えて生粋のギャンブラー気質な瑞希はこの博打みたいな企画には恐らく初めから大賛成なんですよね。瑞希のマジックは素っ頓狂な結果に終わりましたが、しかし桃子を笑顔にすることは出来た。皆が素っ頓狂なことばかり言うライブもやってみればきっと誰かを笑顔にできる、それならやってみる価値はあるんじゃないか、だって誰かを笑顔にすることこそがアイドルの本分なんですから。

瑞希はわずかに微笑んだだけでしたが、彼女なりの想いを伝えるにはそれで十分でした。

問題が解決したことに安堵する琴葉の前には気配りの天才まつりが現れます。
ただまつりも瑞希と桃子の元へは行かず、ただ物陰から見ているだけ。これは「また自分は何の力にもなれなかった」と自己嫌悪に陥りがちな琴葉に対するフォローでもあります。”あの”まつりが状況を静観するという判断をしたのなら、静観するしか出来なかった自分の行動も結果として正しいことだったんだと琴葉に思わせたんですね。

話が一段落した桃子の元へ駆け寄っていく育と環の後ろには、タイミングを見計らって2人の背中を押してあげたひなたの姿が、また別の物陰には当事者の大人として桃子の様子を窺いに来た奈緒とその相棒である美奈子の姿もありました。

桃子が「やりたくないって言ってるの!」と言ったのにも理があり、皆それを理解している・・・というのが、桃子を心配して駆けつけてくる何人もの仲間という形で表現されています。第4話は登場アイドルが37人もいるからこそ使える贅沢極まりない力業、そして彼女たちにとっての見せ場でもあります。

群像劇としてのミリアニの完成度の高さはここに象徴されていると言っていいでしょう。キャラクターの理解、動かしかた、間の取り方、全てが惚れ惚れするほど美しい。

とはいえ、新規視聴組にも納得のいく説明をしなくては原っぱライブ開催の流れには持って行けません。
そしてその役割に最もふさわしいのはもちろん劇場組一番の新人で、誰にでも分かる言葉で自らの気持ちを語れる企画の発案者・未来。彼女は桃子の周りで起きたもう一つの出来事については知るよしもありませんでしたが、翼の見事な機転の助けも得て劇場内の全員に自分の考えを伝えることに成功し、遂にアイドル達の心はまとまりました。

後に”小さなキセキの日曜日”と歌われることになるその日に向けて、シアター組は未来を先頭に一つになって走り始めます。

→ テレビ放送後の感想延長戦・第4話

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